昨日、小津安二郎の「東京物語」を久々にDVDで見ました。
昭和28年の作品ですから当然モノクロで
画面もほとんど正方形に近い小さなものでした。
カメラワークに至っては何の変哲もない据え置き状態。
画面の枠内に人間が出たり入ったりするかと思えば、
じっと黙って枠内に座っていたりするのです。
まるで客席から芝居を見ているような感じがかえって新鮮でした。
映画だからカメラがダイナミックに動くという先入観は
間違っていることにやがて気がつくことでしょう。
何と言うことのない日常的な会話のなかに、
登場人物の性格や癖が現れてきます。
アクションもない、ドラマチックな言い合いもない。
ただただ静かに、客観的に登場人物が描かれていくのです。


日々の生活に追われている息子や娘の本音が、
上京した父親と母親にチラチラと向けられるのに対し、
夫を亡くした義理の娘が優しく誠心誠意接します。
この義理の娘を演じるのが原節子。
何と美しい上品な日本語をしゃべる女優でしょう。
これに対しちょっと毒のあるちゃきちゃきな下町言葉を駆使する杉村春子。
朴訥で鷹揚のない言葉のなかに不器用な父親を演じる笠智衆、
おおらかで大地のような愛情を感じさせる東山千栄子の母親。
名優たちをまるで長い手綱を操るように静かに御する小津監督。

さすが欧米人をも虜にした作品だけのことがありました。

熱くならず、冷静に物事を見つめていく
小津安二郎の人間としての大きさが生み出した名作なのでしょうね。
私は、ここに尊敬される日本人の見本を感じました。


安倍首相をはじめとする政治家の皆さん、
ご覧になっているとは思いますが、もう一度ぜひ小津作品を見てください。
日本が平和に貢献するのは軍事力でも経済でもなく、
日本人特有の冷静さと優しさなのです。