昨日、はじめてMETライブビューイングを見てきました。
オペラ上演に携わっている者としては不勉強極まりないことですが、
午前10時からオペラを見る気にはなかなかなれなかったのです。
それに映画館でオペラを見る魅力を
余り感じなかったということもありました。
でも、ほとんど見る機会のないプッチーニの
「マノン・レスコー」という演目に惹かれました。
プッチーニの主な作品で見ていないのはこれだけだったからです。

オペラ・ファンの数から言っても、
10時からという上映時間から言っても
客席はガラガラだろうと、たかをくくって行ったのですが、
予想に反して客席は7割くらいの入り。
「家族はつらいよ」以上の盛況なのに、まずびっくりしました。
熱心なオペラファンがこれほどいるとは意外でした。

いよいよ上映開始。
冒頭にメトロポリタン歌劇場の壮大な客席が写り、
これから始まる公演への期待感を高めてくれます。
縦長の額縁舞台がオペラ劇場らしさを強調しているようです。
幕が上がると奥行きをいっぱい使った豪華なセット。
そして大勢の群集。全てが大きいのです。
お金がかかっているんだろうなと思わせます。

マノンを演じたオポライスは容姿抜群で奔放な役柄を的確に表現。
デ・グリューのアラーニャは一途な文学青年を力演していました。
幕間の舞台転換を見せてくれるのですが、
これがまるで建築現場の作業。
数十人のスタッフが動き回り、
巨大なセットを組み上げていく様はいかにもアメリカでした。
衣裳部屋も80人体制とのこと。
この世界規模の放映そのものが、
大スポンサーの存在と放映権収入をもたらしているようです。
これだけの公演は、そうでもしなければ成り立たないのでしょう。
これはこれでひとつのやり方だし、
実際このオペラは素晴らしいものでした。

しかし、日本でオペラをやる場合、
このやり方は通用しないと思いました。
日本人の繊細さ、日本人のつつましさを生かした工夫によって、
新しい味付けをしたオペラ上演をしていかないと無理です。
日本人の作ったフランス料理やイタリア料理が
本場のそれよりもうまいと言われることがあります。
日本の競馬やプロ野球は、
どこのそれよりもきめ細かくて面白いと言われることもあります。

日本人には自分たちの感性で
自分たちにあったものを作り上げていく才能があります。
平和というものに対する考え方も
武力に頼らない方法という独自のものをもっています。
何だか話が飛躍してしまいましたが、
METライブビューイングを見て思い知らされたことは、
日本人はアメリカ的なやり方を真似するのではなく、
日本人が持っている感性で独自のものを
生み出していかないといけないということでした。
地球の限りある資源を大切に、
自然と共生していこうとする日本人の感性に誇りをもち、
世界から尊敬されるような日本になれたらいいなあとつくづく思います。 

 (達人の館 プロデューサー 橘市郎)