ヴェルディ・サロン・ライヴが始まって早くも10ヶ月が経ちました。
月は「都をどり」のため中断しましたが、月から再会。
月、月は大学が夏休みになったり、
お盆を中心とした行事と重なるため
ヶ月に公演ずつのライヴとなりました。

820日のライヴにはバリトンの井上大聞さんが出演してくれました。
彼のことは以前にも書きましたが、堀川高校からストレートで
上野の国立芸術大学に入り、現在大学院で研鑽中の逸材です。

彼の祖母である井上美恵子さんは京都造形芸術大学の元教員で
現在は評議員をやられていることから、私も以前から存じ上げていました。
春秋座の友の会に入っていただいていたため、時々お話もしていましたが、
思わぬところで、ばったり出会うことがあり不思議なご縁を感じていました。
例えば大丸の入り口、全く方向違いのバスの中。
そんな時に「私の孫が音楽大学の声楽科に入りたいと言っているのですが、
どうしたらいいんですかねえ?
それも東京の上野にある芸大に行きたいらしいのです」。
先生は私がオペラの制作をしているのを
ご存知だったので相談されたのでしょう。
「先生、そこはストレートではなかなか入れないいところですよ」
などとお話したのがスタートでした。

堀川高校の卒業演奏会で大聞さんの歌を聴いた時、
私は彼の素質に惚れ込みました。
実に素直な声とステージマナーの良さに大物感を感じたのです。
もちろん努力もされたのでしょう。
彼は周囲の期待に応えて、見事希望の大学に合格し、
めきめき腕を磨いていきました。
彼の存在があったので、ヴェルディ・サロン・ライヴの企画が
スムーズに行ったのかもしれません。
今、住んでいるのは東京ですし、大学院での研鑽のこともあり、
出演の機会がなかなか得られない中、
今回回目のライヴ出演が決まりました。
お盆終了直後の時期ですし、動員面を心配したのも事実です。
ところが70名の予約が入ったのです。
これには美恵子先生やお母様のお力もあったことでしょう。
前回、前々回も大変なご協力をいただいていたと思います。
でも今回はライヴ始まって以来の大入りでした。
これ以上はもう入りきれないという盛況で、
店のオーナーにも席の作り方、お客様対応で大変おせわになりました。

さて、大聞さんのステージですが、今回はゲストはなし。
しかも息抜きの軽い曲なしの熱唱でした。
ピアノの坂口航大さんも汗びっしょりの伴奏。本当にお疲れ様でした。
そして私がびっくりしたのが、大聞さんのトークでした。
曲目の解説を原稿なしで丁寧にユーモアを交えて進行したのです。
10
ヶ月前に、はにかみながらおしゃべりしていた人が
こうも変わるものかと感心を通り越して感動しました。
若い人の急速な進歩に改めて驚かされたのです。
声にも腰が入り堂々としたバリトン歌手になってきました。

ただ、テノール歌手への憧れがあるらしく、
多少無理した高音を使っていたことに関しては軽く注意をしましたが、
ご本人も分かっていたようです。
でもこの意欲も彼のいいところだと思っています。
今度はいつ出演してくれるのか気になるところですが、
彼にとっては大切なオーディションもあり、今後のことは未定です。
でも私にとっては大きな夢があります。
彼がもっともっと大きくなり、
地元の春秋座オペラで主役を勝ち得てもらうのがベストだと思っています。
消耗品である声を大切に磨き上げ、
バリトン歌手が主役のオペラを務めてくれるよう期待しています。

「頑張れ井上大聞!」

(一般社団法人 達人の舘 代表  橘市郎)