3月16(金)の「筑前琵琶 上原まり平家物語を語る」が無事終了しました。
13時の回はともかく、17時の回は動員に大苦戦しました。
どちらかといえば年配の方を対象にしたものは
夜にかかると難しいようですね。
でも、上原まりさんは嫌な顔ひとつせず熱演してくれました。
平家物語はまりさんの十八番なのでもちろん素晴らしかったのですが、
今回初めて聴いた「雪女」は筑前琵琶の可能性を暗示する秀作でした。

作詞家の岩谷時子さんがまりさんのために書いてくれた作品ですが、
「夕鶴」に似た民話を基にしたストーリーは、
筑前琵琶にぴったりでした。
口語体ゆえに言葉が良く分かり、
作詞家らしく短いながらドラマチックに仕上げられていました。
若い人にもアピールできる作品として注目したいと思います。

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3月17(土)は東京藝術大学音楽学部同声会京都支部主催の
62回新人演奏会を聴きに府民ホール アルティに行ってきました。
この欄でも何回もご紹介した井上大聞さんが
トリで出演するというので、夫婦揃って出かけました。

堀川高校を卒業し、ストレートで東京藝大に入った逸材は期待に違わず、
京都に帰る度に進境を見せていたので、今回もとても楽しみでした。
お母様も、おばあさまもさすがに緊張されていたようです。
ピアノ、テノール、ヴァイオリン、クラリネットといった演奏者が終わって、
最後に登場した大聞さんが中央に立った時、私は目を見張りました。

何という貫禄!その立ち姿は自信に満ち溢れ、
どう見ても30歳を超えたベテランのバリトン歌手のものでした。
伴奏のこれまたお馴染みの坂口航大さんが小さく見えたほどです。

彼が選んだ曲目は、R.ヴォーン・ウィリアムズの<旅の歌>。
私は「何故オペラのアリアを歌わないんだろう?」などと思っていたのですが、
彼が歌い始めると彼の声質や音域に
ぴったりの選曲なので脱帽してしまいました。
しかも意外にドラマチックな曲が多く、
大聞さんのいいところが出ていたのです。
堂々とそして伸び伸びと歌い続ける彼の歌唱に、
会場は水を打ったようにシーンとしていました。
私は不覚にも涙ぐんでいたようです。

高校を卒業して年、
一人の青年がどうしたらこんな成長を遂げられるのでしょう?
もちろん家族の方をはじめとする支えがあったと思います。
でも、本人の努力無しにこんな変貌を遂げられるわけがありません。
「好きこそものの上手なれ」
私はこの言葉を改めて思い起こさずに入られませんでした。

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3月18(日)はヴェルディ・サロン・ライヴで
北條エレナ(ヴァイオリン)、山崎愛沙子(ホルン)、
矢野百華(ピアノ)の演奏会がありました。
ブラームスのホルン・トリオという
なかなか聴けない名曲に触れることが出来ました。
北條さんの美しく感性溢れるヴァイオリン、
山崎さんの力強く繊細なホルン、
矢野さんのダイナミックで奔放なピアノ。
気持ちのいいトリオでした。
中でも矢野さんのシンプルで分かりやすい曲目紹介は好感が持てました。
また有望なトリオが出現した感じです。
世の中すさんでいるこのごろ、若いアーチストの演奏は
一服の清涼剤といっていいでしょう。

(一般社団法人 達人の館  代表 橘市郎)