9月27日から29日の3日間は春秋座で立川志の輔公演が行われ、
私は初日と楽日を拝見してきました。
特に初日は師匠が楽屋入りして
舞台チェックをするさまを見させていただきました。
皆さんはタレントとしての師匠は良くご存知ですが、
演出面での存在は案外知られていないと思います。

しかし、落語が全くの独り舞台だけに
その演出ぶりは他の舞台芸術以上に、ご本人の感性にかかってきます。
師匠は楽屋入りと同時に舞台チェックに入ります。
高座の位置、袖幕や文字の状態。照明のあたり具合や色、そして明るさ。
音響の大きさや聴こえて来る方向感、音質。そして明瞭度。
こう書くと細かいため、時間がかかるような気がしますが
実に手短にチェックしOKを出していくのです。
その手際の良さは、いろんな演出家の稽古を見慣れている私も
感嘆せずにはいられません。

そしてお弟子さんや共演者の音響を聴いて、楽屋に入るのです。
劇場での落語というものがこれほど緻密に演出されているとは
お客様にはお分かりいただけないと思うし、
師匠もこういう事を書かれるのは嫌がるかもしれません。
しかし落語というものが昔のように単に寄席の演芸ではなく、
世界に誇るべき、一人芝居の藝術であることをお伝えしたかったのです。

演技においても師匠の熱演は単なるお笑いを超えた迫真そのものです。
高座を降りてくる健康な落語家が憔悴しきっているのを、
私は今まで見たことがありませんでした。
私は歌舞伎の猿翁と落語の志の輔師匠というお二人と出会えて
本当に幸せだったと思います。
来年も春秋座での「立川志の輔落語」を楽しみに頑張るつもりです。
そして来年はパルコ劇場での公演も再開されます。
健康管理に万全を期してくださいますように祈っています。

(音楽・演劇プロデューサー 橘市郎)