新型コロナ・ウイルスの発生以来いろいろ異変が起こっています。何処の薬局、スーパーに行ってもマスクやトイレット・ペーパーがないという事態です。こういう事態を見て私はあることを思い出しました。

私は春秋座という劇場の運営に携わっていた時、何回か非常時の避難訓練をやっていました。
普段ならば劇場が終演してから、お客様が退出されるので流れはスムースなのですが、万が一火災や地震が発生した時には、出口に殺到するお客様でパニック状態に陥りやすい非常時こそ慌てないということが如何に大事かを知って貰いたかったのです。

今回の事態は一種のパニックと言っていいでしょう。
自分だけは助かりたいと思うのは、生存本能かも知れませんが、そこを冷静になって考えて欲しいのです。我先にと殺到することが危険なのだということを。
マスクやトイレット・ペーパーが何時までも無くなるなんて事はないのです。
何かあると、わっと同じ方向に向かって走る群集心理に陥らないようにしたいものですね。


北大路欣也さんは早稲田文学部の演劇科出身で私の年後輩ですが、在学中は全くご縁がありませんでした。ところが帝劇杮落しのミュージカル「スカーレット」で二人は突然出会うことになります。
私はこの時、音楽担当の演出助手をしていたのですが、主役のレッド・バトラー 宝田明さんが映画の撮影中怪我をされ、急遽代役に北大路さんが選ばれたのです。
初日まで1週間、私は練習室に北大路さんと音楽指導の先生とこもり特訓を重ねました。
その結果、彼は俳優でありながら才能と努力で立派に代役を務め、公演を大成功に導いてくれました。

この時のハイライトLPが在りますが、今聴いても素晴らしい歌唱に吃驚させられます。
この時の歌唱が忘れられず、北大路さんには後年、中野サンプラザでのコンサートやいくつかのホテルのディナーショーもやっていただきましたが、石原裕次郎さんにも負けず劣らずの成果を挙げてくれたものです。最近は年賀状のみの交流になっていますが、その礼儀正しい人柄は相変わらずです。

その北大路欣也さんがよく言っていた「人は生かされている」いう言葉が最近味わい深く感じられるようになりました。若い頃は「生きる」という言葉ですんでいたのですが、「生かされている」がひしひしと迫ってくるのです。私が歳をとってようやく解って来たことを北大路さんは若くして理解していたなんて凄いですね。

またお会いしてこんなお話もしてみたいと思いますが、お忙しいので無理でしょう。
せめて新しいドラマを拝見するのを楽しみにしています。

(音楽・演劇プロデューサー    橘市郎)