父親が遺してくれたまま本棚にあった文庫本を自粛生活中に完読しました。
これも新型コロナ騒ぎがもたらしてくれた恩恵です。結構体力が要りましたが、作家が足かけ18年かかって完成させたことを考えたら罰が当たりそうですね。

競走馬にもステイヤーがいたり、スプリンターがいますが山岡荘八は正しく名ステイヤーです。徳川家康が当時としては長生きをして15代に亘る徳川時代の基礎を築いた功績は凄いと思いました。家康も人間ですから私欲や功名心が無かったわけではありません。しかし最後には泰平を願いこの世を去っていく様が丁寧に描かれていました。織田信長、豊臣秀吉をはじめとする登場人物は多岐に亘り、細かいエピソードが次々と紹介されていく博識には敬服するしかありませんでした。

学生時代から多数の文藝作家やその作品に接したきましたが山岡荘八のような作家を、単に大衆作家として扱うとしたら不公平のような気がします。
最も世の中の風潮として何が基準で評価がなされていくかが判然としないのは単に文藝作家だけではないようですね。世の中にはそれなりの評価をすべき人や作品が数多くあります。「素晴らしいものを素直に評価する心」を持ち続けたいものです。
(音楽・演劇プロデューサー    橘市郎)