一瞬の静寂

音楽・演劇プロデューサー・橘市郎のブログ。日々思ったことを綴っています。 東宝(株)と契約し、1973年にプロデユーサーに。1981年独立後は、企画制作会社アンクルの代表をつとめ、中野サンプラザからの委嘱で「ロック・ミュージカルハムレット」「原宿物語」「イダマンテ」を、会社解散後は「ファンタステイックス」「ブルーストッキング レデイース」などのミュージカルを制作。 2001年京都芸術劇場の初代企画運営室長。

2016年02月

26日に「村上敏明リサイタル」を控えているというのに、
先週末は観劇ラッシュでした。
16
日がロームシアターのオペラ「こうもり」ゲネプロ見学。
18
日が「こうもり」本番観劇。
19
日は兵庫で島田歌穂さん主演の「天空の恋」。
20日は大阪で旺なつきさん主演の「マレーヌ」、
21
日は市立芸大のオペラ「カルメン」と続きました。
オペラの2作品については、また後日書きたいと思います。

まず「天空の恋」は作家谷崎潤一郎をめぐる
3人の女性を主人公をに描いた物語ですが、
ゲスト出演の島田歌穂さんの演技が光っていました。
ミュージカル・タレントとして数多くの実績を挙げてきた彼女ですが、
今回は全く歌無しで女優としての参加でした。
しかし、歌はなかったものの、
演出がミュージカル的なテンポと
省略を上手く取り入れていたものだったので、
彼女の起用がズバリはまった感じでした。
妻・松子のしたたかさと谷崎の才能に惚れ込み、
トコトン尽くす健気さが良くでていました。
ミュージカルで鍛え上げた軽妙さが生かされたようです。
リズム感を持った女優は今後も貴重な素材になることでしょう。
歌はなくとも女優としてやっていける可能性を
アピールした舞台だったと思います。

旺なつきさんは20年前、ミュージカル「天狼星」でご一緒したのですが、
その時も日本人らしからぬ容姿で、外国人役をやっても
全く違和感のない女優さんだと思いました。
宝塚では、このキャラクターが十二分に生かされたんでしょうね。
逆に言うと役柄が限定されるきらいもあったのです。
そういう意味で今回のデイートリッヒ役は
彼女のはまり役といっていいでしょう。
顔立ちもさることながら、スタイルもスリムそのもの。
まず、マレーヌに相応しい登場が目を引きました。
スターとしてのプライド、肉体が衰えていく不安、一人の女性としての弱み。
そういったいくつもの側面を実に的確に演じていました。
歌はやや声量に物足りなさはあったものの、
マレーヌらしさは出ていたように思います。
連日、地味ではあるけれど
魂を注ぎ込んで舞台を努めている二人の女優さんを見て、
こういう人たちこそ、達人と呼ばねばならないと思いました。

お二人は決して出るだけで、客席を満員にするタイプではありません。
でも 入場料に見合う歌を、演技を披露してくれます。
達人の館の主催公演にいらしてくださる皆様、
ぜひともお二人の舞台を見てあげてください。
そして、村上敏明 さんのスカッとする歌声を聴き逃すことのないよう、
今一度スケジュールをチェックされるようお願いいたします。

村上敏明さんのリサイタルまで、あと10日あまりになりました。
主催者として以上に1ファンとしてワクワクしています。
というのも、私はいいテノールの歌声が大好きだからです。
オペラ歌手はソプラノもバリトンも好きには違いありませんが
中でもテノーに弱いんですね。
甘い声も、ドラマチックな張りのある声も、その緊迫感がたまりません。
同じ人間の声なのに、鍛えると人間業とは思えない迫力を伝える。
まるで時速160キロを越すスピードボールを投げるピッチャーや
100メートルを9秒台で走る短距離ランナーを見るように興奮するのです。

私は中学1年生の時、音楽部の先輩に半ば強制的に、
フェルッチョ・タリアビーニという
イタリア人テノールのリサイタルに連れて行かれました。
「音楽が好きなら、この人の声を聴かなくてはいけない。
これを聴いて何にも感じないようだったら音楽部にいる資格はない」。
この人は自分でミュージカルを作曲するほど、ませていたので、
反論することは出来ず、むしろいやいや会場に出かけました。

神田にある共立講堂の3階席に座ると、
ステージははるか遠くに見えます。
金屏風とピアノだけのシンプルな舞台に
やがて小太りで小柄なおじさんが出てきました。
拍手が起こった時、金屏風の後ろを小さな物体が通り過ぎました。
一瞬客席がどよめきました。
何とそれはネズミだったのです。
でも、タリアビーニは何もなかったように歌い始めました。
マイヤベーヤの『アフリカの女』より
「おお!パラダイス」というアリアでした。
信じられないような細く優しい声。
でも、ピアニッシモの声が
きちんと3階までちゃんと聴こえるんです。
マイクを使わないのにどうして?
と思っているうちに曲調が変わり、
今度は張りのある声が響いてきました。
そして高音がフォルテで発せられた時です。
私の耳の中が共鳴して「ビビッツ」と響いたのです。
私はびっくりして耳の中に指を入れたほどです。
「何だこれは!」「人間の声ってこんなに凄いんだ!」。

だからと言ってタリアビーの声は
決してうるさいというものではありませんでした。
甘さと辛さが心地よく調合された
おいしい料理のように気持ちのいいものでした。
私はそれ以来タリアビーニ信者になりました。
そしていろいろなテノールのレコードを買い、聴き比べをしました。
エンリコ・ カルーソ
ベニアミーノ・ジーリ
マリオ・デル・モナコ
ジュゼッペ・ステファノ
ユッシ・ビヨルリンク など
いろいろと個性があり、聴き応えがありました。
これが元ですっかりオペラファンになり、
イタリア歌劇団の来日公演に
家庭教師のバイト代を全てつぎ込むことになるのです。

でも今の仕事に繋がってくるのですから
感謝しなければなりませんね。
長くなりましたので今日はこの辺で。
私が如何に226日を楽しみにしているか
お分かりいただけましたでしょうか?
 
     MurakamiToshiaki_A4_2
226(金)京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
「テノール 村上敏明リサイタル」


S席 4500円 B席3500円

チケットお申し込みは 電話 0757088930   
           FAX  0757088934 

本日13日「京都民報」にて
村上敏明リサイタルの記事が掲載されました。
ぜひ、ごらんください。
京都民法

また、18日(木)は「極上の京都」(橘出演の分)が再放送されるとのことです。
KBS京都、午後9時半からのオンエアーです。
2年半前の取材なので、ちょっと恥ずかしいですが、
こちらも合わせて、ご覧ください。
『極上の京都

MurakamiToshiaki_A4_2MurakamiToshiaki_A4ura
2月3日、テノールの村上敏明さんが新聞取材のため、
京都を訪れてくださいました。
月末に東京文化会館でオペラ『トスカ』の主演を演じたばかりなのに、
11時に京都に着いてピアノ伴奏の福田和子さんと音合わせ。
13時に終わると、そのまま京都新聞社へというスケジュールでしたが、
疲れた顔ひとつせずインタビューに応じてくれました。

村上さんのご両親は共に音楽の先生をされていたため、
小さい時から音楽には触れていたようです。
6歳上のお兄さんも後に国立音楽大学に入学されているので、
文字通り音楽一家だったようですね。
でも、母校、日野高校の先輩に忌野清志郎がいたので、
もっぱら彼に憧れていたそうです。
三浦友和も高校の先輩、といいますから、
日野高校は芸能界に大物を送り出していたんですね。

そんな村上さんがクラシックに目覚めたきっかけは、
レコードで聴いたマリオ・デル・モナコの歌声でした。
とにかくかっこいい!
こんなテノールになれたら男冥利に尽きると思ったそうです。
最初に感動したテノール歌手がデル・モナコであったことが、
後の村上さんにとってどれだけ幸いしたか知れません。

国立音大を卒業後、藤原歌劇団オペラ研修所で研鑽。
素質を買われてイタリア留学。
ボローニャで付いた日本人とイタリア人の先生が二人とも素晴らしい人で、
村上さんとの相性も抜群だったこともラッキーだったようです。


村上さんが今でも目標にしている3人のアーチストは、

テノールのデル・モナ コ、ジャコミーニ、

そして忌野清志郎だそうです。

京都民報の取材は喫茶店で行われたのですが、

熱心な記者さんの質問に、ソット・ヴォーチェで

歌声を聴かせてくれるなど、実に気さくな方でした。


「リサイタルというと硬い雰囲気がありますが、

1部ではトークを入れながら、楽しく進めたいと思います。

2部はおしゃべり無しで、オペラ・アリアを中心に

じっくり聴いていただきたいです」
とのこと。

1年に100日以上、本番をこなしている村上さんですが、
「先日、家内(砂川 涼子さん)が
秋川雅史さんと舞台でご一緒したのですが、
自分をどう見せるかという点で勉強になりました」と
芸能界で活躍している人に対しても謙虚な目を向けています。
「布施明さんなんか、
ぜひオペラのアリアを歌って欲しいですね」ともらすあたり、
「自分はクラッシクの世界のオペラ歌手です。
あの人たちとは 違うのです」と
偉ぶるタイプの人でないことははっきりしています。

「生の声を武器にした、テノール歌手としての歌にはなりますが、
いいものはジャンルにこだわらず何でも歌って行きたいです」。
イタリアのベルカント唱法を象徴するような明るさも村上さんの魅力です。
私は10年も前に、初めてお会いした時、村上さんは
先代の中村勘三郎さんに似ていると思ったのですが、
坂田藤十郎さんにも歌舞伎役者の顔をしていると言われたそうですよ。

とにかく2月26日、実際に見て、聴いて
村上敏明さんの魅力を確かめていただきたいと思っています。
お待ちしています!
(達人の館 プロデューサー橘市郎)


チケットお申し込みは 電話 0757088930   
           FAX  0757088934  


↑このページのトップヘ