一瞬の静寂

音楽・演劇プロデューサー・橘市郎のブログ。日々思ったことを綴っています。 東宝(株)と契約し、1973年にプロデユーサーに。1981年独立後は、企画制作会社アンクルの代表をつとめ、中野サンプラザからの委嘱で「ロック・ミュージカルハムレット」「原宿物語」「イダマンテ」を、会社解散後は「ファンタステイックス」「ブルーストッキング レデイース」などのミュージカルを制作。 2001年京都芸術劇場の初代企画運営室長。

2019年11月

ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の来日は感銘を受けました。
唯一の被爆国を訪れ核のない世界を訴えてくれたのは大きな力となりました。
大体この国が核軍縮に賛成しないと言うのはどう考えてもおかしな話です。
正論が言えない指導者が余りにも多い現実が、
人々をそして地球を破滅させようとしています。
それは我欲を満たすために懸命な人たちが
あっちにもこっちにも居るからでしょう。
今こそ世界中の人々が助け合い、
平凡であっても安心して生活できる社会を目指さないと人類は破滅します。

「歴史はくりかえす」と言われますが、
今こそ人類がそして地球の滅亡が危惧されている時代はありませんでした。
寿命が延びたといっても人生たかだか100歳、
英雄思考ではなくお互いが慈しみ合い、
尊敬しあう生き方をしたいものです。
これは「青年よ、大志を抱け!」というクラークさんの言葉とはちがって、
「負け犬の遠吠え」かもしれませんが、
80歳に近い男の正直な気持ちでもあります。

(音楽・演劇プロデューサー  橘市郎)

我が家にある往年の名歌手の演奏を聴き直していることは
以前、紹介しましたが、
何度聴きなおしても飽きないのがタリアヴィーニです。
私がこれまでで一番、感銘を受けた歌手をあげるとすれば、
間違いなくこの人です。
初めて人の声の考えられない美しさと
迫力を教えてくれた恩人でもあります。

この19日に「黒田恭一さんを偲ぶ会」が行われましたが、
黒田さんもタリアヴィーニのファンであり、
高い評価をしていることは10年も後に知ったのです。
もしかするとこの感性の共通が私を認めていただいたのかも知れません。
あの柔らかいソット・ヴォーチェと
響き豊かな迫力あるフォルテシモの使い分けは
ほかの歌手には絶対出来ません。

温かい人柄といい、愛すべき小柄な体型といい
「私はスターだ」という威圧感のないのも魅力でした。
今思えば黒田さんは、どこか雰囲気がタリアヴィーニに
そっくりだったように思います。

仕事とスケジュールが重なり
「黒田恭一さんを偲ぶ会」には参加できなかった私ですが、
天国でタリアヴィーニと再会している黒田さんを想像して
うらやましく思ったりしています。
今宵もタリアヴィーニの声を聴いて黒田さんを偲びます。

(音楽・演劇プロデューサー  橘市郎)

少し前になりますが大阪のいずみホールで「日欧艶男合戦記」という
光源氏とドン・ジョヴァンニを対比したパフォーマンスを見に行きました。
桂春團治さんの語りとオペラの抜粋をアレンジしたものですが、
部で親しい作曲家尾上和彦さんの作品が披露されることから
尾上さんからご招待されたのでした。
部は、かなりお笑いの要素が見られましたが、
オペラ「月の影」を扱った第部はほとんどシリアスに扱われ
オペラ・ハイライトといった感じでした。

指揮の阪哲朗さんも演奏のアンサンブルもさすがでしたし、
部出演の歌手たちもしっかりした歌唱を聴かせてくれました。
衣装にしても本格的で本公演に劣らない豪華さだったと思います。
尾上さんのオペラは日本物といえど
ベルカント・オペラ並の声が要求されるので、
アリアともなると歌手の力量が極めて出来を左右してくるのです。
そういう意味でもレベルの高い公演でした。

ここでは字幕が使われていましたが、
和歌を引用したアリアなども内容が伝わり有効でした。
改めてアリアの中には耳に残るメロディーも多く、
これからも繰り返し上演していくことによって
「夕鶴」以上に親しまれる日本物オペラとなる可能性を感じました。

尾上和彦さんは私と同じく細身。
しかも大病と戦いながら不屈の精神で作品を創り続けています。
尾上さんの活動が若い世代の人々に
うまく引き継がれていくことを切に願っています。
今度またゆっくりお目にかかりたいと思います。

(音楽・演劇プロデューサー 橘市郎)

 

 

 

 

112日は春秋座のプロデューサー・舘野佳嗣さんから
表記のミュージカルにご招待いただきました。
この原作はかつて市村正親さん主演の一人ミュージカルとして
春秋座で公演されているので懐かしさもあり喜んで出かけました。

ところが今回の作品はシチュエーションこそ同じでしたが
演出も、音楽も全く新しいもので別の作品だったのです。
特に違っていたのは音楽で、
全編、中村匡宏さんのピアノを生かしたオリジナルでした。

中村さんは鍵盤男子としてもピアノを弾き、語り手までやっていました。
もうおひとりの鍵盤男子・大井健さんも台詞をこなしていたし、
ミュージシャンがここまで多才かと感心してしまいました。
もちろん主役の元宝塚北翔海莉さんも熱演で
この3人のアンサンブルは見事というほかありませんでした。

筋立てがしっかりしていたので主人公が
最後に住み慣れた船とともに運命を共にするくだりも説得力がありました。
市村さんが主役を演じていた「海の上のピアニスト」のストーリーが
曖昧に記憶されていたのに対し、今回はっきりとしたのが収穫でした。
それにしても才能のある若いミュージシャンが
これからどんどんでてくるのは頼もしいですね。

舘野さんは宝塚とのコネクションを持っている貴重な方、
春秋座でこそ可能な元宝ジェンヌのパフォーマンスを
これからも実現していって欲しいものです。
休憩無しで約1時間半という上演時間も良かったと思います。
上演台本・演出の星田良子さんの功績も
大きかったことはいうまでもありません。

(音楽・演劇プロデューサー  橘市郎)



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